

今世紀、道路の整備と自動車の普及によって社会は目覚しく進歩してきました。わたしたちの生活も便利になり暮らしやすくなりました。しかし、その一方で交通事故、渋滞、排ガス・騒音などによる環境の悪化など、さまざまな道路交通にかかわる問題が深刻化しています。高齢化が進み高齢者の交通事故死が急増している問題も特に対策を急がれています。ITS(高度道路交通システム)はこれら「20世紀の負の遺産」である諸問題を解決する切り札となるとともに、21世紀において新たな可能性を引き出す社会システムとして注目され、いろいろな場所で整備が進められています。それでは、ITSが実現すると、わたしたちの暮らしや道路交通はどう変わるのでしょか。「スマートウェイ推進会議」では、2015年に全国の主要幹線道路網でスマートウェイ化を実現する事を目標にしています。15年後の未来をのぞいてみましょう。
【図書館で遠隔地のサッカー試合開催を知る】
能登半島の北端、珠洲市狼煙町で暮らす北陸太郎さんと花子さん夫婦は、定年退職後の生活をのんびり楽しんでいる。朝食を終えると太郎さんは近くの図書館へ、花子さんは地域の主婦たちとカルチャーセンターへ出かけるのが北陸夫婦の日課。太郎さんが図書館に入るといつも出会う顔なじみの友人が、今日はロビーにある端末機の大型画面に映し出されているサッカーの試合に熱中し、さかんに声援を送っている。「おは
よう、今朝はやけに威勢がいいね。どこの試合なんだい」学生時代フォワードの選手として活躍した太郎さんは、声をかけながらサッカーの試合にくぎ付けになった。ちょうど日本チームがセンタリングされたボールをヘディングシュートしようとジャンプをした瞬間だ。「あーだめか。それっ!」太郎さんは日本チームの試合運びにやきもきしながら隣の端末機で、開催中の新潟スタジアム「ビックスワン」の試合情報を検索する。「チャレンジ杯は明日まで開催、空席状況は・・・チケット購入受け付け・・・」太郎さんはすかさず、明日の試合チケット二枚の購入を入力する。「やはりサッカーの試合は生で観戦さ」とつぶやきながら、サッカーに関心のない花子さんをいかに誘おうか思案しながら自宅に向かう。家に着くと、太郎さんはテレビ電話で花子さんを呼び出した。自宅のモニター画面は各地の郷土正月料理講習を受けている花子さんの姿を映し出した。太郎さんはモニターの花子さんに新潟へのドライブを切り出す。
【走行支援システムで高齢ドライバーも安全・安心】 「お正月においしい料理を作ってあげようと楽しみにしていた講習会だったというのに・・・。おまけに新潟市なんて遠いし雪道でたいへんですよ。わたしたちは若くはないんですからね」と、花子さんは予想通り簡単には首を立てに振らない。「途中富山に立ち寄って『ますの寿司』を食べ、新潟で『コシヒカリ』と『笹団子』『地酒』味わってみるというのはどうだい」太郎さんは帰る道々考えた誘い文句を矢継ぎ早に並べた。「確かに新潟は禄剛崎灯台から青くかすんで見えるほど遠いが、今は走行支援システムがあるから運転は楽なもんさ。ICカードに行き先を入力すれば、分岐ごとにカーナビが音声で指示してくれるし、センサーがとらえたほかの車や歩行者、障害物の情報を即座に提供したり、警告を発したり自動ブレーキをかけるなどで運転操作を支援してくれるんだよ。それに雪道でも心配は要らないさ。路面の状況を車が感知し、その路面に応じた走行をしてくれるからね。高速道路では道路下に埋め込まれたセンサーが車を誘導してくれるレーンもあるから、疲れたら自動走行に切り替えることもできるんだよ」 太郎さんが走行支援システムについて説明を終えるが早いか、花子さんは料理講習会を切り上げて帰り仕度を始め、「昔から良寛に興味があるんだけど、良寛を感じられる所にも連れて行ってくれるなら出かけますよ」と欲張った条件も付け加えた。


【ナビゲーションシステムによる交通・目的地情報の提供】
早速、太郎さんは端末機で「良寛」を検索し、生誕の地・出雲崎と半生を過ごした分水町・五合庵の状況を映し出した。雪はちらついているが十分見学可能と判断し、両地を組み入れ新潟市までのルートを、愛車のナビに転送入力して花子さんを待った。北陸夫婦が愛車に乗り込みICカードを車載器に差し込むと、カーナビのモニター画面は富山I.C、西山I.C、新潟西I.Cと高速道路から降りるインターチェンジのリアルタイム映像を順次映し出し、全ルートの混雑状況を色分けして表示してきた。「富山市街地は駅周辺で混んでいるから、インターからう回路を選択して行こう」とスタート。久しぶりのドライブに太郎さんは気持ちよくハンドルを握っていたが、ついうとうととしてしまい走行支援システムの車線逸脱防止センサーにキャッチされた。ナビから警告音とともに「危険です。自動ハンドルで戻します」と音声で知らせてきた。太郎さんは自動走行レーンに車線変更し自動走行に切り替える。「なるほど高
齢者でも安心ね。あのトラックもみんな自動で走っているの?」花子さんは前を走るトラックを指差して聞いた。「うん。高速道路上では道路の下に埋め込まれたセンサーが目的地のインターまで幹線輸送トラックを誘導するし、運行に必要なリアルタイム情報、たとえば走行時間情報・路面凍結情報・視界不良情報などを走行中のトラックに知らせているから輸送はスムーズなんだよ。渋滞のために予定が狂ったり、排気ガスで大樹を汚染することも緩和されるのさ。特に雪の多い地域では周辺一般道路でもこれらの情報を提供しているそうだよ。先ほどの情報によれば西山I.Cでは雪が降っていたから、新潟県に入ってしばらくすると雪道の路面情報がこの車のカーナビにも飛び込んでくると思うよ」花子さんは太郎さんの説明に耳を傾けていたが、高岡I.Cを過ぎて分岐前道路情報板がそれぞれの走行先の天気情報を伝えているのを見て「ねぇ、右手に分岐する先方の五箇山というのは世界遺産の合掌造り集落でしょう?お豆腐もおいしいらしいわね。行ってみたいわ。」花子さんは、快適なドライブに上機嫌で思うままを口にし始めた。太郎さんが「五箇山観光」とカーナビに音声入力すると、モニター画面に菅沼集落と相倉集落が現れ、続いてインターからの道路案内と駐車場情報が提供された。「今なら駐車場も空いているし行ってみようか」太郎さんが立ち寄り先の追加変更をカーナビに入力すると、「一キロ先の分岐を右方向へ」という音声が流れてきた。

【高速道路と地域をつなぐSA・PA】
花子さんはモニターの美しい合掌集落風景に胸を踊らせていたが、ふと見ると駐車場わきのトイレが混み合っている。「五箇山に着く前にどこかで寄れないかしら」と太郎さんに聞くが、太郎さんも初めて走る道路だからわからない。カーナビに向かって「一番近いトイレ」と音声入力した。すると、「三キロ先、城端ハイウェイオアシス」と音声が流れ、モニターには桜ヶ池・クアガーデンが現れた。「わぁきれい。温室栽培された城端町の特産品花の販売もあるのね。トイレのついでに見てきましょうよ」花子さんが用を足している間に、太郎さんはSA施設内の大画面端末機で、さきほどのサッカーの試合の続きを映してみた。試合は日本チームが優勢に運んでいるが、両チームともいまだに得点はなく延長戦にもつれ込んでいる。太郎さんは明日の試合がますます楽しみになってきた。「こんな所にいたの」鉢花を抱えた花子さんが近づいて声をかけた。太郎さんはサッカーを気にかけていることを悟られまいと、「いい花が買えたね。高速道路の上下線から利用できて便利になったし、一般道からも出入り可能で地域とも交流できるからハイウェイオアシスの魅力は広がったね。地域の活性化にも多いにつながっているだろうね」と話題をつくり、車に乗り込んだ。
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路面情報(この情報は15分毎更新)
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路面番号
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国道8号線
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地名
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富山県黒部市黒部
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路温(℃)
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4.2
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気温(℃)
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2.0
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観測日時
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2015年12月23日13時00分
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【自動料金収受システム(ETC)で料金所もらくらく通過】
さすがに世界的観光地五箇山I.CのETCゲートを通過する車は多いが、ノンストップだからスムーズに通過すると通行料金がモニターに表示された。「わたしたちがどこから高速道路を利用してきたかどうしてわかるの?いつお金を支払うの?」ETCゲートを初めて利用する花子さんは興味津々にゲートを振り返った。「高速道路の入口ゲートにある路側アンテナから、車載器に入口情報が送られるんだよ。そして出口では、車載器から料金所の路側アンテナに入口情報が送信され、自動的に通行料金を計算して路側アンテナから車載器に料金情報が送られるのさ。支払いは後日個人口座から引き落とされるしくみ。車に乗り込んだときに車載器に入れたICカードはクレジット会社が発行したもので、個人口座が入力されているんだよ。この花もこのICカードで買うことができたんだよ。昔は観光地の料金所などでは必ず渋滞してイライラしたのに便利になったもんさ。五箇山でもこのとおりすんなりだからね。」カーナビの音声誘導に従い駐車場に車を止め、ゆっくり合掌集落を見学して五箇山豆腐を味わった花子さんはご満悦だ。美しい風景を後にしながら花子さんは「素晴らしい文化遺産だけれど、山に囲まれた生活は不便じゃないかしら」とつぶやいた。「なぁーに、光ファイバー通信網が全家庭に届いているから、買い物もインターネットで注文して届けられるし、医療機関にも直結していて健康状態もチェックできるから安心して暮らせるんだよ」
【通りすがりの町を実体験】
カーナビの音声誘導に従い富山I.CのETCゲートを通過すると、「ますの寿司」屋さんへのルートがモニターに現れた。「混雑している道路を避けて案内してくれるから助かるね」初めて富山を訪れた北陸夫婦だが、道に迷うことも渋滞に巻き込まれることもなく、めでたく「ますの寿司」を堪能した。「ETCでは二時間以内に戻れば、高速に乗るごとにかかるターミナルチャージが免除されるんだよね。もう一時間残っているから近くの道の駅・地域ITSの情報キオスクで、観光情報を検索してみようか」ふたりが端末機に『伝統産業』と入力すると、薬種商の館・金岡邸が映し出された。「富山といえばやはり売薬ね」と、早速カーナビに入力し音声誘導によって金岡邸を訪れ富山の歴史の一端に触れた。

【交通事故発生時など 適切な誘導と情報提供で安全を】
高速道路に戻り新潟県に向かうとトンネルが多くなった。花子さんは次々に現れるトンネルに怖くなり言葉少なになる。太郎さんはそんな花子さんを見て取り、「先ほどついうとつととして車線をはみ出して走行支援システムによって自動的に車線中央に戻されたけれど、たとえば交通事故が発生したときには、道路に設置されたセンサーがキャッチし後方の車に即座に警告情報を送ってくるから、トンネルなどを通過するときにも安心なんだよ。トンネルの手前では大きな情報も提供しているしね」と、走行時の安全性を説明した。花子さんはホッとした表情を浮かべ、「もうすぐ良寛さまね」とうれしそうにほほ笑んだ。「柏崎から先、雪注意」とカーナビから知らせてきたが、西山I.Cに近づくにつれ徐々に天気は回復し注意情報は消えた。ゲートを通過し音声誘導に従って出雲崎町に入るとすっかり青空が広がっている。海に向かって鎮座する良寛を感慨深く見つめ、しっとり静かな妻入りの家並みに感激した花子さんは「新潟へのドライブに誘ってくれてありがとう。こんな素晴らしい家並みが今も大切に残されているなんて、ITS関連の技術の進歩同様うれしい驚きだわ」と、満足そうに太郎さんに語った。分水町の五合庵を見学し満ち足りた気持ちで、二時間後には西山I.CのETCゲートをくぐり一路、高速道路を新潟市へと向かった。

【パーク&ライドの利用で市街地もスムーズ移動】
さぁーて、いよいよ新潟市だぞ。宿泊施設の情報を取り込んでみようか。宿を予約しておいた方が何かと気が楽だし」と、太郎さんは「宿泊施設」と音声入力した。すると道路わきに立っている通信装置から提供されていた駐車場、観光施設、公共施設などの情報項目のうち宿泊施設情報が反転し、空室ありのホテルや旅館がずらりと並んだ。幾つかの候補を選びモニターに映し出される宿の館内施設や予算と照らし合わせ、選択して予約を入力。モニターの新潟市内の道路状況を見ながら太郎さんは「市街地はやはり混雑しているな。パーク&ライドを利用した方が賢明」とつぶやき、カーナビに「駐車場」と音声入力した。モニターには公共交通とリンクする駐車場が数ヶ所現れた。「ビッグスワン」と予約したホテル、飲食街に近いという条件を満たす駐車場をピックアップ。ETCゲートを通過後カーナビの音声誘導通り太郎さんは車を走らせ難なく駐車場に到着した。 |
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あっけにとられていた花子さんはようやく太郎さんに尋ねた。ここはどこの駐車場なの?なぜここで車を降りるの?」「パーク&ライドといって駐車場と公共交通が一体化したシステムなんだよ。混雑する市街地ではマイカーに乗っているより、この方がずっと効率よく動けるんだ。荷物は置いたままにして新潟市
内を気ままに回りながら、とにかくおいしい物を存分に食べよう。おっと、ICカードを忘れちゃいけない」太郎さんは車載器からカードを抜き取って車を降りた。 |
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【買い物や公共交通機関にも利用できる 多目的交通カード】
「車を動かさないのになぜそのカードが必要なの?」花子さんはカードに目をやりながら太郎さんに聞く。「多目的交通カードシステムといって、このカードはそのまま公共交通の乗車券として使えるんだよ。さっきの五箇山の駐車場もお豆腐もこのカードで支払っただろう。これから食べるものの支払いもこのカード一枚で済むんだよ。もちろんホテルの支払いもこのカードだし、チェックイン時には予約番号もあるから必要なんだ」太郎さんは手中の携帯端末機のモニターを見て、バスが近づいていることを知ると花子さんを少し急がせた。乗車した花子さんが外を眺めていると、救急車が走って来るのが見えた。救急車が信号に近づくと交差する道路側の信号がみんな赤色に変わっていく。最初は偶然だろうと何気なく見ていた花子さんだが、太郎さんの説明で緊急車両支援情報通信システムだと感心する。

【歩行者ITSがバリアフリー化を向上】 「次の停留所で下車してください」太郎さんの歩行者ITS携帯端末機が誘導し始めた。太郎さんは先ほどバスの中で「笹団子」「コシヒカリ」「地酒」を味わえる店を検索・入力しておいたのだ。「十メートル先を左へ曲がってください」「直進二百メートルで目的地です」などの音声誘導に従い、北陸夫婦は新潟の幸を心ゆくまでたっぷりと味わった。翌朝、疲れもなく目覚めた北陸夫婦は早々に「ビッグスワン」へ向かった。途中、携帯端末機でお弁当屋さんを探し、コシヒカリ弁当を携えて行くことも忘れない。歩行者ITSの誘導で「ビッグスワン」に着くと、もうたくさんの人が集まっていた。入り口でICカードを差し込み表示された予約席に座る。太郎さんは声もかれんばかりにサッカーの試合にっ声援を送り、日本チームの圧勝に大満足だった。高速道路の自動走行レーンでのんびり岐路に着く北陸夫婦は、楽しかった新潟へのドライブで話が尽きない。無事帰宅した太郎さんがちょっと気になっているのは、「遠いと思っていた所にこんな楽に行って来られるんなら、もっとどんどん出かけましょうよ。北海道にも行きたいし、沖縄にも行ってみたいわ。明日はどう?」と次のドライブを楽しみにする屈託のない花子さんの言葉だ。文章及び写真は「けんせつほくりく:2000年12月号」から抜粋しています
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