皆さんは町に買い物へ出かけたり、職場に通勤するとき、どんな交通手段を使っていますか。車はドア・ツゥー・ドアの移動を可能にしますが、多用されると公害や渋滞を引き起こし、歳の集積機能を低下させかねません。今回は、都市再生の切り札として路面電車を活用している例を紹介します。
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【都市問題と公共交通の役割】
自動車はその高い利便性から利用者を伸ばしてきましたが、環境悪化や渋滞などの問題を引き起こしています。自動車の排気ガスは地球温暖化や酸性雨の原因になるだけでなく、都市部や沿道住民の健康に直接被害を及ぼします。市街地に車が集中すると渋滞が発生するため、これを避けるため郊外には自動車利用を前提とした大型商業施設が造られ、中心市街地の衰退を招きます。自動車交通の優先は運転できないお年寄りから移動手段を奪うとともに、地下や高架構造による歩行空間の障害を増やしてきました。そこで、かつて「ちんちん電車」と親しまれた路面電車が、これらの都市問題を解決する手段として見直されてきています。路面電車は電気駆動のため排気ガスを出さず、バリアフリーの観点でも地下鉄や高架の電車に比べ上下移動が少ない公共交通だからです。路面電車は明治二十七年に京都で初めて登場し、昭和七年には六十五地域で運行されましたが、自動車交通の発達に伴い廃線が相次ぎました。現在、営業を続けているのは十九地域にすぎませんが、延伸や新規導入を検討している所は四十地域に上ります。路面電車の復活には、一九七○年代から欧州で見られるようになった次世代の路面電車LRT(Light Rail Taransit)の登場も一つの推進力になっています。これは車両を低床化して停留所と高さと床の段差を小さくし、騒音を抑えて加速性も高めた車両(LRV;Light Rail Vehicle)を用い、交差点の立体化や専用軌道の確保などにより高速走行も可能にしたもので、郊外から都心内に直接乗り入れることができるため都市の集積機能を高める役割が期待できます。LRVは従来の路面電車よりも高価ですが、地下鉄や新交通などの軌道系交通機関と比べれば安く済みます。都市再生の切り札として路面電車を検討する自治体の動きに対し、行政も支援に乗り出しました。建設省は路面電車を「都市の装置」として位置付け、平成六年度に「都心交通改善事業」、平成九年度に「路面電車走行空間改築事業」という支援制度を設けて交差点改良や駅前広場の整備に対する助成を開始し、平成十年度には路面電車の延伸や新設を目的にした路面、架線柱、上屋などの整備ができるようになりました。運輸省は二○○一年度、LRVを購入する鉄道事業者に購入費の半額を補助する制度を設ける方針を決めています。
■2000年年6月広島電鉄軌道線に登場した超低床電車
「グリーンムーバー」。鉄道線への乗り入れもあり、現在国内の
路面電車では最もLRTに近い要素を持つ
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【都市問題と公共交通の役割】
愛知県豊橋市では、平成九年度に創設された「路面電車走行空間改築事業」の適用第一号として路面電車を百五十メートル延伸しJR豊橋駅前広場までの乗り入れを図りました。豊橋市を走る路面電車は豊橋鉄道鰍ェ経営するもので、現在五・四キロの区間で営業しています。豊橋駅が起終点になっており、駅前では一日約八千人の人が通勤や通学などに利用しています。今回の駅前広場への路線延長は、豊橋駅総合開発事業の一つである東口駅前広場の再整備として行われたもので、ほかにも市街地の分断を解消する東西連絡通路の整備や駅舎の増改築などが実施されました。整備前は豊橋駅と停留所が百メートル以上離れ、地下道や信号交差点を介さないと豊橋駅と連絡できず、信号を待ったり雨の日は傘を差す必要がありました。交通結節機能を高めるという点では、東口駅前にペデストリアンデッキを設けて歩行者が二階部を歩けるようにし、地上階を路面電車および自動車専用としました。さらにバス、自家用車、タクシーが走る場所を分け、路面電車とバスの乗降場を隣接させるとともに、要所に地上と二階部分とを結ぶエレベーター・エスカレーターを配置しました。また、都市景観に配慮し、架線を支柱からつり下げる従来の方式を廃し、センターポール式のみのすっきりとした形に改良しました。
【改良を重ね利用者戻す □熊本市】
熊本市が経営する路面電車は、平成十(一九九八)年度の年間乗客数が千七十五万人余りと対平成元(一九八九)年度比で二二パーセントの増加になっています。その影にはハード・ソフト両面による相次ぐ工夫があります。熊本市の路面電車は大正十三年の開業当初から市が経営するものですが、現在は熊本駅南側の田崎橋から健軍町、上熊本駅から健軍町の二系統十二・一キロが残っています。一度は全線廃止が決定しましたが、石油危機や代替交通機関を確保するための資金調達の難しさなどから、再建策が検討されるようになりました。昭和五十三年に全国で最初の冷房車を導入した後、軌道敷地内通行区間を廃止して二車体連接車を投入しました。景観上・安全性から電停の改良を進め、五十五ヶ所でスロープを設けるとともに、二十六ヶ所で上屋を設置しました。二十七ヶ所の電停には、電車接近表示機を設置しました。また、JR側も市電との乗り換えが可能になるようJR豊肥本線に新水前寺駅を新設しました。平成九(一九九七)年には全国で初めて超低床電車(LRV)が登場しました。レール面から床までの高さがわずか三十センチで、四ヶ所ある乗降口と電停との差が十二センチしかなく、子供やお年寄りにも乗りやすい構造になっています。ソフト面では、平成二(一九九○)年から平成十一(一九九九)年までに増便による九回のダイヤ改正を行いました。運転間隔をラッシュ時に二分半、昼間でも三分にし、終電の時刻も辛島町終発を二十三時三十分に繰り下げました。共通プリペイドカードや一日乗車券の発行も始めました。
今後は、JR豊肥線との結節性をさらに高めるため、平成十六(二○○四)年までに市電水前寺駅通電停をJR新水前寺駅付近に移動し、歩道橋型の通路で一体化する計画です。熊本市ではトランジットモール化の研究も行う予定です。
※ トランジットモール=歩行者専用の空間に、バスや路面電車などの公共交通だけが通行できる通り。
【環状化計画で中心部の再生に期待 □岡山市】
岡山市を走る路面電車は、岡山駅を起点とする東山線と清輝橋線からなり、一日約一万一千人の利用があります。二路線の合計は四・七キロと国内最小規模で、岡山市の人口が六十二万人であることを考えれば、この小ささは際立って見えますが、近年は積極的な路面電車活用方針が打ち出されています。岡山市の人口は毎年○・五パーセント程度の着実な伸びを見せていますが、周辺市街地における増加が中心で、中心市街地はほとんどの地区で減少傾向をたどっています。一世帯当たりの自動車の保有台数は平成十年で○・九三台と、路面電車のある同規模都市では最も高い状況にあります。岡山市は路面電車をこれからの基幹的交通手段として拡充する方策を検討するため、平成九年度に「まちづくり交通計画調査」を開始し、学者や関係行政機関、事業者の岡山電気軌道鰍ネどからなる調査委員会で議論を重ねてきました。平成十二年二月に委員会が出した方針では、将来レベルで郊外部への延伸やJR線への相互乗り入れを視野に入れましたが、まず取り組むべきものとして基本計画と第一期計画を策定しました。基本計画では「一キロメートルスクエア」と呼ばれる区域の環状化とJR大元駅までの延伸を挙げました。これは岡山市の都市部が一キロメートル四方の広幅員の道路の沿道とその内部によりおおむね構成されていることがあります。この四方の角部には玄関口である岡山駅、後楽園や岡山城に至る文化・観光拠点、市役所を中心とした行政機関などの拠点、京橋・千日前を中心とした町発祥の拠点があり、路面電車がこれらを結ぶ役割を担うことを期待するものです。併せてJR大元駅ともJR線との接点を設け結節性を高めることで、利用度を向上させようというものです。基本計画を背景に、第一期として最初に整備する路線として、岡山駅前交差点から市役所を経由し岡山大学病院に至る約一・六キロが提案されています。
【北陸での取り組みと課題】
管内では現在、富山県の富山市と高岡市で路面電車が運行されています。富山市を走るのは富山地方鉄道富山軌道線で、市中心部をコンパクトに結び、朝・日中・夕は四分間隔の高頻度で運行しています。しかし乗客数の減少はここでも免れず、四年間に百十万人も減少しています。富山県は、老朽化した富山大橋の架け替えを計画しています。富山大橋には路面電車の軌道があり、架け替えにより現在単線となっている右岸の橋詰から富山大学までの複線化が実現します。しかし、宅地移転が生じるため、複線化には異論もあります。富山市ではマイカーへの依存度が年々高まる傾向にあり、ほかの公共交通機関の利用者も減り続けています。高岡市と新湊市では、加越能鉄道「万葉線」が営業を続けています。乗客数の減少に歯止めがかからないため両市議会で廃線が議論される一方、市民による支援活動も展開されており、今後の動向は流動的です。金沢市は戦災を受けなかった城下町で、中心部では慢性的な渋滞が発生しています。同市はこれまで中心部から車を排除するパークアンドライドや自転車利用の促進などにより交通需要をコントロールする施策を展開してきましたが、十月にLRTの導入を想定した社会実験を実施しました。新潟では平成四年まで路面電車が市街地に乗り入れていましたが、自動車需要の高まりから廃止に追い込まれました。しかし、政令指定都市への昇格を視野に入れて町づくりを考えると、公共交通の活用は避けて通ることのできないテーマになりつつあります。路面電車は北陸でも、今後の都市づくりを進める上で重要なカギになると言えそうです